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石原尚 Hisashi ISHIHARA



大阪大学教員である石原尚の研究者個人サイトです。
2010年から開発を進めている子供アンドロイドAffettoの最新機
2010年から開発を進めている子供アンドロイドAffettoの最新機
子供型アンドロイドAffetto2024/4/10 4:182024/4/26 8:40

Vision & Approach

自然な触れ合いと多彩な身体表現が可能な高機能小型アンドロイドを実現する技術を開発し、人と機械との間で感情も含めた情報が豊富に交わされる社会の実現に貢献します。機械工学の観点から技術課題を整理し、異分野融合の取り組みで問題解決の道筋を開拓します。各種研究成果は子供型アンドロイド ”Affetto” に統合・導入し、システム全体の性能を評価します。
とくに、
  • 人の自然な反応をより多く引き出せるように、共感を誘う心や感情の動きを背後に感じさせる表現力をロボットに持たせる
  • 表現力の向上のため、人の皮膚や皮下組織が有する対人情報機能の理解と構成に取り組む
  • 表現力の着実な向上に役立つ機械性能評価法や設計法を開発する
ことを重視しています。

Short Bio.

石原 尚(いしはら ひさし)。博士(工学)。1983年生。2009年から2012年まで日本学術振興会特別研究員DC1(浅田稔教授研究室)。学部から博士後期課程まで大阪大学に在学し、2014年に博士(工学)を大阪大学で取得後、2019年1月まで大阪大学大学院工学研究科テニュアトラック助教。以後同研究科機械工学専攻 講師(動的システム制御学領域大須賀・杉本研究室)。2016年から2020年までJSTさきがけ研究者を兼任。
 

Compact Mechanical Design

小型ながらも機敏かつ多様に動作する空気圧駆動の高密度人型筋骨格システムの設計と制御に取り組んでいます。

Skin Motion Analysis

モーションキャプチャ技術を利用して、人とアンドロイドの顔皮膚の動きの計測と変形特徴の解析に取り組んでいます。

Dynamic Facial Expression

複雑かつ自然な動きの中で気分や感情の揺れ動きを表現する動的感情表現技術の開発に取り組んでいます。

Touch Impression Control

人がロボットに触れた際に伝わる印象を調査し、触感を印象制御手段にする研究に取り組んでいます。

Affective Social Interaction

動き方を変えられる半遠隔操作型アンドロイドを開発し、人の反応を調べる研究に取り組んでいます。

Soft Material Sensorization

柔らかい素材の感触と機械特性を損なわずに触覚センサにする技術の開発と応用に取り組んでいます。

Selected Works

詳細は各項目の▶ボタンを押すと開きます
期待バイアスを含む他者の模倣を利用した知覚運動系の誘導的機械学習法の提案(2011)
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子供が母国語の母音を獲得する過程に,親の期待や模倣の癖(バイアス)がどのように影響するかを計算機シミュレーションで分析した研究です.
子供の声は,生後一年をかけて徐々に母国語に特化したものになっていき,日本人なら日本語の5つの母音をうまく発音できるようになり,またそれらをうまく聞き分けられるようにもなっていきます.そして,親の「あ」という声を聴いて,親にも「あ」と聞こえる音を出せるように真似もうまくなっていきます.このような母音獲得を子供は当たり前のように達成しているものの,「発音の学習」「音声知覚の学習」「模倣のための知覚と発音の結びつけの学習」の3つの学習の達成が必要であること,また,これらの学習の期間には様々なやりとりが親との間で交わされていることから,いったいどのような仕組みと条件で母音獲得が達成されているのかは完全には明らかになっていません.そこで,計算機シミュレーションによって,それらを明らかにする取り組みを行いました.
まず最初に作成した計算モデルは,相手の発音した単母音の音声(二次元ベクトルとして表現)を自分の発話運動(二次元ベクトルとして表現)に変換する模倣関数を2つ用意して,互いの出力が入力となるように結び付けたものです.これは,親と子が互いに声を真似しあうことが母音獲得を促しているという仮説があったためです.一方の模倣関数は親による模倣に使われるものであり,「親の真似のうまさは変わらない」という想定のもと,模倣の仕方を決める関数のパラメータは固定であるものとしました.もう一方の模倣関数は子による模倣に使われるものであり,「子の真似のうまさは,親に真似されるごとに向上する」という想定のもと,親に模倣をされる度に,よりうまく模倣ができるように関数のパラメータが更新されるものとしました.このような設定にしておいて,はじめは母音ともとれない曖昧な音ばかりであった子の発話が,親との声の相互模倣の繰り返しを通じて,どのように移り変わっていくかを計算で確かめてみました.期待される結果は,徐々に「あいうえお」の単母音を喋れるようになっていくことでした.しかし,シミュレーションの結果はそうはならず,曖昧な音ばかりを発するままでした.つまり,相互模倣だけでは母音獲得は達成できない,ということがわかりました.
上記のシミュレーションで最終的に行われていた模倣のやりとりは,「子も親も,複数の母音が混ざったような曖昧な音を繰り返し互いに真似しあっている」というものでした.しかし,このように曖昧な音ばかり真似しあう状況は不自然です.少なくとも親の側は,曖昧な音でも母国語の母音のいずれかの音に似た音として聞くという特性(知覚のマグネット効果として知られています)を有していますし,曖昧な音より普段使っている母音の方が発音しやすいので,親の発話は子の発話に比べて,母音の知覚にまとまって分布するはずです.そこで,このような「聞いた音をより母音に近い音として模倣する」という癖(バイアス)をSensorimotor magnetsと名付けて,親の模倣関数に組み込みました.このようにすると,声の模倣の繰り返しを通じて,子の発話は5つの音に収束していきました.しかし,それらの音は,「母音ではない」曖昧な音でした.言い換えると,親のSensorimotor magnetsは,子の発話を一定の音に収束させる効果を持つものの,その音が母国語の母音になるように誘導する効果は持たない,ということがわかりました.
そこで,親が模倣する際に起きているであろう別の癖も親の模倣関数に組み込むことにしました.これは,聞こえてくると期待していた音の方に知覚が引き寄せられる,というものです.互いに声を真似をしあっている状況で,親がある声を発した後には,その声に対する真似の声が聞こえてくると無意識的にも期待すると考えられます.そこで,自分自身が発した声によって,聞こえる音がそちらよりの音として知覚されるというバイアスがあると仮定し,これをauto-mirroring bias(自己鏡映バイアス)と名付け,模倣関数に組み込みました.そして,上記のSensorimotor magnetsとauto-mirroring biasの強さを様々に変えた条件で相互模倣のシミュレーションを行ったところ,これらの二つのバイアスの強さのバランスが取れている場合に,子の発話は一定の音に収束しながら,徐々に母国語の母音に導かれていくという母音獲得の過程が再現されました.
上記のシミュレーションでは,相互模倣の状況で自分自身が発した声によって聞こえる音がそちらよりの音として知覚されるAuto-mirroring biasが存在すると仮定した場合に,子の母音獲得のメカニズムが説明できることが示されました.そこで,このバイアスが成人の模倣傾向として存在するかを検証する実験を実施しました.合成音声を実験参加者に利かせ,その合成音声と相互に模倣しあってもらったときの模倣の傾向を解析したところ,このバイアスの存在を裏付けるような模倣傾向となっていることが確認されました.
空気圧アクチュエータを高密度に人型身体に実装する筋骨格機構のデザイン(2015)
操作量に対して非線形の変位を呈するアンドロイド顔皮膚の操作性評価と改善(2018)
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アンドロイドロボットを高機能化しようと,様々な内部機構や皮膚の構成が検討されています.しかし,各種構成によって結局どのくらい良いアンドロイドができたのかを測るための統一的・客観的な評価指標がないため,多種のアンドロイドとの比較検討がなく,乱立気味です.アンドロイドの開発競争が効果的に行われるようにするためには,どのような構成のアンドロイドであっても適用可能でありながら,具体的な特性の良し悪しを定量的に把握できる評価指標が必要です.そこで,アンドロイドの機械性能評価を行うための方法を研究を実施しました.
アンドロイドの顔は主に,表面の柔軟被覆,被覆を支える外殻,外殻内部に収められた駆動機構の3層構造になっています.駆動機構が発揮する力が何らかの駆動力伝達方式によって外殻を経由して柔軟被覆を変形させるという仕組みです.1つのアンドロイドの顔でも,多種の表情を作り出すための多くの駆動機構が内蔵されています.
アンドロイドによって素材・形状・構造・方式は様々ですが,一般に,駆動機構の動きと被覆表面の動きの関係はかなり複雑です.たとえば,駆動機構を少し動かしただけでは被覆の表面はほとんど動きません.被覆は非常に柔らかいので,被覆の内面付近だけが変形して,力が被覆表面にまで伝わらないからです.また,被覆表面が動いたとしても,駆動機構の動きに対してどのように追従するかは,被覆の場所によって様々です.たとえば,外殻との摩擦が強い部分はなかなか追従して動きません.
このように,アンドロイドの顔の被覆は非常に操りにくいにも関わらず,その「操りにくさ」を定量化する方法はありませんでした.定量化されていなければ,改善点も特定できず,また上手く操るための対策も打てません.そこで,特定のパターンで駆動機構を1つずつ動かした際に,アンドロイドの顔皮膚表面がどのように追従するかをモーションキャプチャ装置で精密計測し,各駆動機構ごとに,被覆の追従特性を分析しました.
結果として,「①敏感性:機構の小さな動きに対して皮膚がどれだけ敏感に動くか」「➁ヒステリシス性:機構の動きの向きによって皮膚の追従性がどれだけ変わるか」「③非同期性:皮膚の追従の仕方が皮膚の位置によってどれだけ異なるか」という3つの特性値で,各機構ごとに皮膚の操りにくさの違いをうまく説明できることがわかりました.
この特性値を駆動機構ごとに把握し,3次元にプロットすることで,「皮膚の操りやすさ」という観点でどの機構がどれだけ他より優れているかを簡単に確認することができます.これで,あるアンドロイドの顔を効果的に改善するために,優先して改善すべき機構とその特性を絞りこむことができます.また,他のアンドロイドであっても,同じ方法で特性値を得ることができるため,「こちらのアンドロイドの方が,全体的にあのアンドロイドより操りやすい」といったような議論が可能になります.
磁性エラストマとコイル回路による肉厚柔軟な3軸触覚センサの実現(2018)
ロボットの触り心地が人に与える性格の印象をどう左右するかの解析調査(2019)
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コミュニケーションロボットの性格印象は,主に見た目や声によってデザインされてきました.しかし,人がロボットに触れることも想定する場合,触れたときの「触感」もデザイン要素の候補として考えなけれなければいけません.なぜなら,もし触感によって性格印象が大きく変わるのであれば,下手な触感を与えてしまうと,意図したものと異なる性格印象を与えてしまう恐れがあるからです.そこで,そもそもロボットの触感が性格印象を左右するのか,また,そうだとしたらどう左右するのかを明らかにする研究を行っています.触感が性格印象を変えるメカニズムが解明できれば,ロボットの触感を変えることによって性格印象をデザインするという道が拓けます.この研究は,金沢大学 子どものこころの発達研究センターの池田尊司助教との共同研究です.
ロボットの被覆の触感の違いが,性格印象の評価をどのように変えるかを調べる準備として,まずロボットの前腕の柔軟被覆を触ったときの触感と,その前腕を持つ小型アンドロイドロボットの性格印象がどのような評価軸の上で評価されるのかを調べました.
過去の柔軟物の触感評価に使われてきた触感形容詞対(硬い-柔らかいなど)と,ロボットや人の性格印象の評価に使われた性格形容詞対(信頼できる-信頼できないなど)を集め,それを基に合計で19の触感形容詞対と46の性格形容詞対を選定しました.この形容詞対は,自分の感じた印象が対となる形容詞のどちらにどのくらい当てはまるか,ということを実験参加者に回答してもらい,印象を定量化するために使います(SD法と呼ばれる手法です).
実験参加者として男女合計で20人の成人を集め,柔軟被覆を取り付けた小型アンドロイドロボットの前腕を彼ら一人一人に触らせて,先の触感形容詞対と性格形容詞対を見せ,感じた印象を回答してもらいました.このロボットの前腕は,異なる材質となるように作成した4種類の同じ形状の柔軟被覆を簡単に取り付けたり交換できるように作られており,実験参加者は,4種類の被覆に対してそれぞれ印象を回答します.つまり,実験の後,4種類の被覆×(19種の触感形容詞対の回答+46種の性格形容詞対の回答)×20人の被験者分の回答データを得ました.
このままでは,形容詞対の数が多すぎて分析を進めるのが難しいので,似た回答傾向となった形容詞対は1つの形容詞グループにまとめて,そのグループ全体の回答データを代表値として扱う方が望ましいです.そのため,得られたデータに対して因子分析を行いました.この因子分析によって,触感形容詞対は4つ,性格形容詞対は3つのグループ(因子)に分けられることがわかりました.触感の因子は,それぞれ,触感の好ましさ,反発感,滑らかさ,生体らしさに関する形容詞対で,一方の性格印象の因子は,親近感,能力,そして活発さに関する形容詞対で構成されていました.つまり,今回の実験参加者は,今回のロボットの被覆と性格に関して,これら7つの評価軸(因子)において異なる印象を感じたということが言えます.したがって以後の分析は,これら7つの軸に関して実施します.
上述の回答データを基に,触感因子と性格印象因子の間にどのような因果関係があるのかを解析しました.もしある触感の因子と,ある性格印象の因子の間で統計的に有意な因果が見いだされれば,その触感に違いがある場合に人が感じる性格印象も連動して変わる,と判断できます.
このような因果構造を推定するために,触感因子から性格印象因子に向かう因果の向きを仮定してパス解析を実施しました.その結果,複数の有意な因果が見出されました.例えば,触感の好ましさ因子から,性格印象の親近感及び活発さの因子へは正の因果がみられました.つまり,被覆の触り心地がよいと,そのロボットは親しみやすく,また活発な性格だと認識される傾向にあるということです.また,触感の反発感因子から,性格印象の能力及び活発さの因子へも正の因果がみられました.さらに,触感の滑らかさ因子からは,性格印象の能力因子へは負の因果がみられ,また,触感の生体らしさ因子から性格印象の親近感因子へは正の因果が,能力因子へは負の因果が,そして活発感因子へは正の因果がみられました.このように,触感のどのような印象がどのように性格印象に影響するのか,そのメカニズムが明らかになってきました.
アンドロイドと人の顔の表現力を「皮膚の可動域」として定義して比較評価(2022)
人の顔の単位運動に伴う皮膚の圧縮と引張領域の分布の推定と可視化(2023)
 

Ongoing Projects

  • JSPS特別推進研究「アジアと欧米:コミュニケーションの文化差から言語の獲得過程を探る」 発達心理学における母子インタラクション実験に用いる子供アンドロイドを開発・運用する役割で分担研究者として参画。
  • NEDO「未来共生社会に向けたニューロモルフィックダイナミクスのポテンシャルの解明」 機械学習による運動能力獲得実験に用いる小型空気圧ロボットを開発する役割で協力研究者として参画。
  • JSPS科研費基盤研究(B)「顔皮膚運動の変形解析と時空間分離解析に基づく次世代型高表現アンドロイド設計」 人の顔皮膚運動の空間特徴と時間特徴を分けて解析した結果をアンドロイドの顔の機械装置と操作信号生成アルゴリズムの設計に活かすことで表現力の向上を図る研究を代表研究者として実施(2024年4月開始)。
  • 立石財団研究助成(A)「高度な表現力を備えるアンドロイドの感性評価に基づく対人印象制御法の開発」 気分の動的表現を人に合わせて調整可能なアンドロイドを開発し、調整のさせ方の違いによって印象がどのように変わるかを明らかにする研究を代表研究者として実施(2024年4月開始)

Research Activity



Last Update 2024-4-26

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